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革新の生命医学情報 No.12

第1原理「赤血球分化説」⑦

第一原理 赤血球分化説

血球の運命とその分化

D リンパ球の運命と分化能

日々莫大な数のリンパ球が体の何処かへ消失することは、血液学者も組織学者も認めています。しかし、それが何処へ消えてゆくのか現在においても謎につつまれたままです。

『赤血球はリンパ球(白血球)を経てすべての体細胞に分化する』という千島学説・第1原理が理解されない限り、リンパ球の行方は永久の謎として残されることでしょう。

リンパ球の運命については諸説がありますから、その幾つかを参考のために紹介しておきましょう。

崩壊消滅説

① 「過剰になったリンパ球は腸粘膜上皮細胞の間を通り抜けて腸内に排泄される」という説。これはバウンティとヘストンが唱えた説です。これに対してスタンレーは、腸管内腔にみられるリンパ球は死後の変化によるもので、組織学的にはリンパ球が腸内に排泄されるという説は証明できないといっています。ヤッフィーやドリンカーも腸内に排泄されるリンパ球はほんの一部にすぎないと述べています。リンパ球について一般には、流血中では僅か数時間ー12時間ほどの寿命しかなく、それが造られるリンパ組織それ自体のなかで崩壊したり、また腸管の中へ排出されて崩壊してしまうものと考えられています。

しかし、この説はまったくの誤りであるという他ありません。各種の脊椎動物において、正常な状態の腸粘膜上皮細胞を通って多量のリンパ球が腸内腔に放出される状況など起きることはあり得ないことです。ただ時には、健常な動物の小腸絨毛の一部が剥がれ(これは多分硬い食物の通過の通過による機械的作用と考えられる)、またこの断面から一部の血液が腸管内に流出する像は認められます。しかし、多数のリンパ球が正常な粘膜から排出されるような像は、前にも述べましたように決して見ることはできません。正常な腸粘膜、即ち絨毛上皮の表面は、モネラ状物質で被われまた液胞を含む無定型の層から成っていますから、リンパ球が排出されるような余地がないのです。

硬い食物の通過により剥がれた絨毛の諸細胞は、腸内で退行する際に細胞核が球形化し、リンパ球状になることから、多分この状態を見て過剰リンパ球は腸腔内に排出されたのだと誤解したものと推測されます。大自然は正常な体機能のなかで、貴重な生産物を過剰に造り、それを徒に排出するような無駄なことはしません。

腸壁から離脱し変化した絨毛上皮細胞や流出した血液の一部が、腸内における消化酵素の重要な材料となる可能性はありますが、これらは体の全リンパ球の行方のごく一部にすぎません。リンパ球の大部分は体のすべての固定組織に分化してゆく運命にあることは疑いのない事実です。赤血球はリンパ球、いわゆる白血球の段階を経て、各種の固定組織細胞に分化するのが原則です。殊に炎症部位などでは、その状況を明確に見ることができます。また絶食や栄養不良のときには、腸の絨毛の細胞はすべて小リンパ球状になるものです。

② 「リンパ球は種々の器官や組織中で崩壊する」という説。エイバーガー他3人の学者が、リンパ球に特殊なラベルをしたあと、血管内に注入しリンパ球の行方を調べました。その結果を「注入したリンパ球は肺、脾、肝、腎などに抑留されるが、主として肺で除去される」といっています。また他にもリンパ球は種々の器官や組織中で崩壊すると主張する学者もいます。しかし、これらの学者が崩壊あるいは除去されると見ている像は、すべてリンパ球(白血球)が組織間隙においてその組織の細胞に分化している状態を見誤ったものでしょう。

③ 「リンパ球は最後にはリンパ組織に戻る」という説。ジョベールが唱えた説ですが、これではリンパ組織がリンパ球で充満した状態がつづき、リンパ球が戻る余裕はないはずです。リンパ球のごく一部はリンパ節に戻る可能性があることは否定できません。何れにしてもこの説も的はずれといえるでしょう。

④ 「リンパ球の主な崩壊場所は肺である」という説。エイバーガーが特殊なラベルをした白血球を血管内に注入した結果を報告したものです。これも末梢的な技術にとらわれた誤った見方であるとしかいえません。人間を含めた動物の体で、肺がリンパ球の主な処理場だといえるような証拠は何処にもありません。

⑤ 肝、脾、骨髄、その他のリンパ組織がリンパ球の主なる崩壊場所であるという説。ファールがウサギに無毒の薬品でラベルしたリンパ球を静脈内注入をし検索した結果、注入後約90分で流血中から消失し、2-12時間後に組織学的検索をしたところラベルしたリンパ球は骨髄、リンパ組織、身体各部の結合組織、腸の固有層,粘膜下組織にみることができ、骨髄ではすでに、骨髄細胞に分化していましたが、他の器官ではみられませんでした。結論として彼は、

A.リンパ球はリンパ組織に戻ってリンパ球生産に役立つ。

B.他のものは骨髄へ行って顆粒性骨髄細胞になる。

と報告しています。この説は上述した他の諸説より比較の上で真実に近づいた観はありますが、まだまだほど遠いものといわざるを得ません。そのわけは、すべての体組織はリンパ球が定着してその組織細胞に分化する場所だということに、まったく気づいていないからです。

マキシモウやブルームも、リンパ球は寿命がわずか12時間ほどであり、主としてリンパ組織で壊れ、一部は腸粘膜を通過して腸管内へ排出されるものだといっています。リンパ球(白血球)が細胞へ分化する能力をもっているという説は、千島喜久男博士が世界で初めて唱えた理論です。

赤血球がある程度の分化能をもつようだということに気づいたごく少数の学者はいましたが、『赤血球は白血球(リンパ球)を経てすべての体細胞へ分化する』ことに気づいた学者は千島喜久男博士以外にはいません。もしこのことを多くの学者が、十分に理解していたら、リンパ球や白血球は崩壊し去るものではなく、体のすべての細胞に分化しているということが、ずっと昔に認められていることでしょう。

E 丘氏父子の細胞新生説と赤血球分化説

今から数十年前の生物学者には現在の人々に比べて、事象の本質をよく捉えて率直な見解を発表している人が多いようです。

丘浅次郎氏の苔虫に関する研究もその一つです。丘氏は当時の東大理学部紀要に、カンテンコケムシの研究のなかで、卵黄球状の顆粒から細胞が新生することを発表しています。1890年のことですから、千島喜久男博士や博士の説に賛同したレペシンスカヤより遙かに早く、ごく部分的ではあるものの細胞新生の事実を知っていたことになります。

丘浅次郎氏はその概要を次のように述べています。

① 卵の卵黄質のような顆粒によって内部が構成されるstatoblastの発生過程では、顆粒塊が棒状に配列し(染色により濃染するため周囲の淡染質の顆粒とは明確に区別できる)顆粒を失い、間隙を生じ管に変化しfuniculusの源基となる。

② 筋生成の過程についても顆粒塊から生じることに注意したい。

③ 各器官形成の完了まで体腔は顆粒細胞塊で満たされ、器官の生成過程において顆粒が減少し顆粒細胞塊は消失する。

④ 発生がかなり進行すると中心に核が現れ、周辺に顆粒の層がない細胞塊が散在する。少し後の段階では周縁のある、そして一端に核のある細胞が見られるが、これには顆粒は見られない。これを「大きな血球」と命名することを提案したい。

⑤ 顆粒が嚢の外面に並んで一種の層を形成するが、次いで顆粒は減少しそれにつれて細胞と核は大きくなる。

以上が丘浅次郎氏の『卵黄球状顆粒からの細胞新生説』ともいえる卓見ですが、氏の子息である丘英通氏は、ホヤの群体が出芽によって増殖する際、15~20個のリンパ球から新個体ができることを発見し、これによって一種の血球分化説を立て、第33回日本動物学会の受賞講演として発表しています。

リンパ球が広い分化能をもつことは、千島喜久男博士がそれよりも二十年以上も前に発表していることです。丘氏には賞が与えられ、千島喜久男博士の発表には沈黙をもって答えているのは不可解なことです。

F 白血球の寿命

白血球の寿命についてはこれまで多くの研究がされていますが、所説の一致を欠いています。

(a) 中性白血球の寿命について

ウエスコットはウサギにベンゾールを与え、骨髄中の中性白血球の形成を抑制して、流血中にそれが現れなくなる日数を測定し、中性白血球の寿命は平均3~4日であると結論しています。

(b) リンパ球の寿命

ヤッフィはイヌについて主リンパ管内のリンパ流やリンパ球数の測定などによって、リンパ球の平均寿命は11.6時間だと報告しています。アダムスのグループも同様の方法で、ネコでは10~12時間だと算定し、レンハーはネズミでは11.6時間とし、24時間で流血中のリンパ球は20.5倍だけ置き換えられるといっています。ヤッフィはウサギで288分だといい、デュークは白ネズミで170分と算定しました。

オットーは健康なヒトのリンパ球の寿命は7日、白血病患者では30~84日とし、オッセンも健康人では3~4日から100~200日といった大ざっぱな数値を出しています。

これらの他にも多数の報告が出されていますが、どの説も各自各様、統一性がありません。報告されている数値は余りにも偏差が大きすぎるだけでなく、これらの研究者は体の部位によってリンパ球の分化速度が異なってくることに少しも気づいていません。そのうえ、平均値をとっているのですから一層におかしなことになっています。

赤血球が固定組織細胞へ分化する前には、一度リンパ球(白血球)の段階を経る場合が多いうえに、栄養状態が悪いときには、固定組織からリンパ球に逆分化します。前述したような実験報告は、これらの点をまったく無視したものですから結果に大きな差異ができるわけです。千島喜久男博士はウサギのリンパ球をカバースライド方式で観察したとき、12時間後に細胞質が増加していることを認めていますが、リンパ球が流血中で半日以内に崩壊するなどという前述研究者たちの説は理解に苦しむというほかありません。

(c) 顆粒白血球その他の寿命

ローレンスは2匹のネコの頸静脈を吻合させ、放射線によって顆粒白血球を失ったネコと正常なネコとの血液を混合し輸血した血球が消失する時間を測定した結果、白血球は24時間に1,5回ずつ置き換えられる……言い換えれば16時間の寿命だと結論しました。

これに対しファウルはウサギに薬品でラベルした白血球を輸血したところ、少数の白血球は72時間後でも流血中に残っていたといっています。また短命説としては、ボイドやジャッカルたちはネズミに放射線を照射し白血球形成を抑制して、他の個体との白血球数を比較する方法で測定しており、またバンダイクも同様の方法によって単核白血球の平均寿命は170分、多型核白血球は23分だったと報告しています。なお、ホフマンの記載では白血球の寿命は研究者各自によって異なり、ヒトは4日ー200日と大きな違いがあり、どれが正しいものかということはまったく不明だといっています。

この研究について他にも多くの学者たちの報告がありますが、その数値は千差万別で一貫性がありません。その最大原因は、白血球というものは赤血球から固定組織細胞へ分化する途中段階のものだということがわかっていないことにあります。

(d) 白血球に関する諸説への批判

前述した研究者たちには次のような共通した不合理があります。

① 白血球は赤血球から分化したものであることに全く気づいていない。

② 白血球は骨髄で造られるという既成説を盲信している。

③ 白血球は赤血球が固定組織細胞に移行する中間段階のもので、本来は流血中にあるべきものではないが、生理的あるいは機械的に流血中へ少数が遊離し、栄養不良や疾病のときは特に多量に流血中に固定組織から逆戻りするものであることを全然考慮していない。

④ ヒトの観察対象として患者を材料としている。

⑤ 白血球のなかでもリンパ球は最も幼若型であり、一方顆粒白血球は老型だが各種白血球はみな一連の分化段階にあるものだから、寿命にも差異があることを考慮に入れていない。

⑥ 白血球が固定組織細胞に分化する速さ、いわゆる寿命は健康状態や年齢によって異なるだけではなく、分化する組織の種類によって著しく異なってくる。卵巣のような器官では非常に速い。ニワトリの卵巣では3~4日以内だが、結合織や筋肉組織はこれより遅い。

⑦ 多くの研究者たちは処理した流血中のアイソトープを調べることにのみ専念して、白血球というものが、何時、何処で、どのようにして、消滅するかをまったく確かめようとしていない。

主な不合理点を挙げてみましたが、今でも一般に白血球は赤血球に比べて短命であるとされています。これは、輸血された白血球が流血中にあらわれることが少ないことからきています。

白血球は赤血球より粘着性が高いという性質から血管内壁、あるいは組織の間隙に接着して抑留され易いために、流血中に出現する可能性も少なくなるわけです。しかし、このことによって白血球は赤血球より著しく短命であるとする従来の考え方は問題だと考えます。赤血球から白血球を経て固定組織細胞へ分化するという現象から、ほんとうの意味からいえば、赤血球が生まれてから固定組織細胞が崩壊するまでの期間がこの赤血球の寿命であるといえます。

ですから、赤血球や白血球の寿命を論じあうことは、あたかも人の幼年時代、青年時代、壮年時代を各々別人と考えてその寿命を論じあっているようなものです。幾度も述べているように、白血球は赤血球から固定組織細胞に分化する中間過程としての存在であり、組織に定着しかけているものですから、流血中に現れることは正常ではなく、むしろ例外的なものだといえます。

従来の説では正常時における人の血液1立方ミリ中には赤血球が500万個前後、白血球の数は6000個前後とされています。しかし、前述したように流血中に白血球が現れることは例外的な現象であり、健康体でこの6000個という数は再検討を要する問題だといえます。

G リンパ領域とその意義

リンパ球は人では、血液中の白血球の20~25%を占めており、両棲類以上の動物では体の組織の至る所に存在していて、その分布率はおそらく赤血球と同じか、それについで広範囲に分布しています。病的の組織、殊に炎症部には円形細胞浸潤と呼ばれるリンパ球の集合箇所が見られます。また、健康体でもリンパ節、脾臓、小腸粘膜のリンパ濾胞、咽喉の扁桃、その他の箇所にもリンパ球の集まりが諸処で認められます。また一方、正常なのか、病的なのか区別をつけようがない所にリンパ球が集合している領域があります。

これを「リンパ領域」と呼び、これを種々な意味に解釈しているようです。『赤血球分化説』とも関係がありますから、これを少し紹介してみましょう。

ニワトリの脳や脊髄にはリンパ領域が存在しており、これに関する研究報告にジェンハー、パルマー、ベーリー、オウバーグなどのものがあります。殊にジェンハーは健康なニワトリの脳の38%にリンパ領域を認めており、あとの学者たちも雛から成鶏までの内臓神経叢にリンパ領域が存在することを認めています。

オウバーグはリンパ浸潤が起きる理由として、

A. 小静脈内に小リンパ球が集積し、血管壁が破れて周囲に拡がる。

B. 小血管内にリンパ球が集積して周囲に浸潤する。

C. 隣接する腸間膜その他からリンパ球が神経幹のなかへ移動するためであり、これは病的であり神経の働きを害する。

と説明しています。

千島喜久男博士は、いろいろな状態におけるニワトリの各種組織を調べていますが、健康なニワトリでもリンパ領域を上述した学者たちがいうような部分に見ています。ただその程度をどのように解釈するかが問題です。

リンパ領域は病的な状態であるほど著明であり、また健康体でも絶食などで栄養状態が悪くなっているときには、さらに著明に現れます。この場合には内臓だけでなく脳、脊髄、筋肉、脂肪、骨、その他あらゆる組織が赤血球に逆分化します。その際、中間移行型であるリンパ様球が大量に現れます。オウバーグが主張するようにリンパ球が充満したために血管が破れるのではなく、周辺組織から血球へ逆分化し毛細血管を新生している状態が、あたかも血管が破れているかのように見えるものです。

『千島学説・第2原理・血球と組織の可逆的分化説』を理解することによって、リンパ領域に関する意見の対立や疑問は自然に解消され、その他の矛盾も解くことができるはずです。

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