革新の生命医学情報 No.26


生命・細胞・血球の起源⑧

第2編 細胞の起源と微生物との共生

○葉緑体・血球及び細胞の起源と共生体

① クロロフィルの共生微生物由来説

 植物細胞起源についてのケラーの説はこの問題について深い暗示を含んでいるように考えられます。彼は次のように述べています。
 「原形質もやはり初めは多分、生物の第一次的形態をそのなかに出現せしめた有機的媒質の一滴であったのだろう。今日は細胞核の組織的影響によって、著しい変化を受けて変容しているが、…途中略… 葉緑粒もまた或る時期には独立した一個の生物であったに違いない。そしてそれは細菌よりは簡単ではあるが、緑色の物質即ちクロロフィルを含有していたと思われる。今日でも私たちは、かかる種類の生物クロロバクテリアを見ることができる」と述べ、さらに植物細胞の発展史を総括して、「後に原形質となるべき、ゼリー状の集塊のうちに無色素生物の群体が存在し、これが後に細胞核に形を変えた。クロロフィルに関係がある物質を含有した緑色の生物も同様にこのゼリー状の集塊に合体した…途中略…最初の生物のかかる共生は、初めは偶発的なものだった。しかし暫時、緊密かつ永続的な系となり、そして、その系の内部において以前は独立していた生物が一個の全態性を形成する」といっています。
 ケラーの主張するクロロフィルが共生微生物に由来するという説は一見、奇妙に思えても多分真実を語っているのではないでしょうか。千島は細胞の起源は始めは細胞構造のはっきりしない原始的微生物の群体から生じたものであることを、実験のなかで確認しているからです。

② 共生体の適応と変化

 ケラーによると「植物性共生微生物は、或る一定の時期には動物に栄養給与の役割を果たすが、その後はこの動物の排泄器のような役割を演ずる。すなわち動物体内のアメーバ状細胞から生ずるタンパク質分解産物を排泄する。これらの遊走性アメーバ状細胞は消化器系内で水中の食物性小粒子を摂取するのに役立つ。さらにこれらの動物は孵化当時は緑色植物細胞をもっていないが、後に水分中からそれが入り込んでくる。そしてそれらが動物体組織のなかに入ると、植物細胞は変化して核を失い後には独立生活もできないようになってしまう」といいます。ここでとくに興味深いことは、これらの藻類が始め栄養作用、次いで排泄の役割を果たし、最後にはそれは動物体組織の一部に同化してしまうといっていることです。
 オパーリンは渦中類の一種は発育の初期には、しきりに珪藻や藻類の芽胞、有機物の破片などを貪食しますが、成熟期に近づくとそれらの摂取をやめ、もっぱらその体内の共生藻類細胞からの栄養に依存するようになるといっていますし、千島も淡水カイメンの細胞内クロレラが次第に細胞の一部に変化する状況を見ています。
 このような事実が幾つも報告されているのに、今なお「細胞は細胞の分裂によってのみ生ずる」という既成説に学界が支配されているのは不思議としかいえません。

③ 血球の起源と共生体説

 コゾポリアンスキーの共生説というのがあります。オパーリンの説明によると、この説は「細胞は最初、簡単な生物の共生によって生じた」という説だそうです。
 すなわち血球の起源はというと、太古において動物体内に共生していた緑藻類ではないかという説といえます。たとえばイソギンチャクの体内には多数のズークロレラが共生していることは周知のことです。これら緑藻類に似た共生藻類が次第に独立性を失くし遂には共生動物の一部に同化したものが赤血球だというのがコゾポリアンスキーの共生説です。ヘモグロビンと葉緑素との化学構造上の類似がこの説の有力な証拠であるといえるでしょう。ミミズの血球の一種である含糸細胞は菌糸様物が集合したものであることは明らかです。千島はこの血球が細菌と無縁のものであるとは到底考えられないことだといっています。
 血球と原生動物や下等微生物とが密接な関係をもち、かつ赤血球が極めて幼若で細胞以前の未分化のものであるという千島学説の「赤血球分化説」については後述したいと思っています。

④ 葉緑素と血色素との可変性と機能的類似点

 葉緑素とヘモグロビンの関係で注意をしなければならないことは、葉緑素は炭素を同化し植物体内で有機物(炭水化物)を合成して、栄養蓄積の作用を果たしているのに、動物の血球、とくに赤血球又は血中のヘモグロビンは体内のガス代謝の役目しか果たしていないと考えられていることです。千島は細心の注意、時間の経過、前後の過程などを考慮した実験と観察によって動物の赤血球はガス代謝のほかに、もつと重要は体細胞への分化能をもっていることを発見し、1949年に発表しました。
 動物の組織中で赤血球は白血球を経て生殖細胞を始めとした全身の各種固定組織細胞に分化し、また脂肪細胞や脂肪組織にも分化するという働きがあることを千島以外の学者たちは無視したままです。この赤血球と体細胞の密接な関連を理解しないかぎり医学や生物学の夜明けは決して来ないでしょう。
 赤血球が体細胞に分化するとき、血球中のヘモグロビンは分化移行過程で、ヘモグロビンとしての反応を失くしていきます。これは細胞の一部として同化されていくとしか考えられません。異種の物質に変化していくわけです。葉緑素の場合も光合成に際して単に触媒の作用を果たし、葉緑素自体は変化しないものと考えられていますが
 千島はこの葉緑素も変化する筈だといっています。その根拠は若いトマトの果実が多量の葉緑素を含んでいるのに、成熟後には紅色となり顕微鏡下で調べても、あの緑色の葉緑素で占められていた果実がすべてオレンジ色の果肉に変わっているからです。これは明らかに葉緑素が赤色やオレンジ色のカロチンや黄色の色素体に変化したものに相違ないと述べています。当然に葉緑素の化学構造も変化しているでしょう。

⑤ ウニの血球と共生生物

 1954年の夏、千島は名古屋大学菅島臨海実験所でウニの体腔液の顕微鏡観察をしていますが、そのとき体腔液中に多数の無定形アメーバ状の血球が含まれており、
 しかもこれには濃赤色と無色のものとの他に、それらの中間移行型とが混在しているのを観察しました。さらにこれらと大きさがほぼ等しい無色球形の細胞(小型繊毛虫に似ている)が非常に活発に回転運動をしているのも確認しましたが、これはアメーバ状細胞とはまったく無関係のものとはいえないといっています。
 この観察結果では繊毛虫細胞→無色アメーバ状細胞→赤色アメーバ細胞への移行の可能性が考えられ、さらにウニの卵巣を観察すると卵巣表面には至る所に繊毛帯があって活発に動いて水流を起こし、それによって体腔中の赤色アメーバ状細胞が卵巣表面に付着し、次第に運動性を失って卵巣組織の一部に同化される様相も観察できました。無色のアメーバ状細胞も同様の過程をたどる筈だと千島は述べています。
 このような諸事実から、下等微生物が共生又は融合によって赤血球又は細胞形成の母体になるという説は進化論的見地から観ても誤ったものとはいえないようです。

○共生クロレラ集団から淡水カイメンの細胞新生

① 淡水カイメンとクロレラ

 1957年、岐阜大学・小泉清明教授によって長良川で淡水カイメンが発見されました。このカイメンは河川の流れがよどんだ、岸に近い川底に美しい緑色の群落を形成し、小石や岩の表面に付着して生活しています。千島はその組織を顕微鏡観察して極めて興味ある事実を発見しました。1957年11月7日のことでした。
 カイメンが呈していた緑色は殆どその大部分が、共生しているクロレラの群体であることが分かったのです。クロレラは直径が1~2μで緑色をしており独立散在しているものや集まって直径が7~15μの集塊になっているものがあり、クロレラの集塊には核をもったカイメン細胞や、中膠細胞と呼ばれるものに至るまですべての移行段階を確認することができました。各種の細胞核は固定染色標本を位相差顕微鏡を使って観察しています。淡水カイメンを形成するものは実は共生クロレラだったのです。

② クロレラの集塊から細胞の新生

 クロレラの集団は外縁が次第に円滑となり、透明な細胞質を生じ、中央部のクロレラは徐々に緑色の色素を失って溶解しあい、次いで塩基好性の核原基が現れ、染色することによって完全な核になるまでの移行型を見ることができます。核形成の初期段階では核内にクロレラが数個、未溶解のまま残っていることがありますが、時間の経過のなかで核に同化していきました。
 カイメン細胞の隙間には多数の細菌が存在し、遊走したり個々のクロレラ或いはクロレラ集塊の表面に付着しています。これらの細菌類は推測ですがクロレラやクロレラ集塊の生長に栄養として役立っているものと考えられます。注意深くカイメン細胞を観察しても、細胞分裂を起こして増殖する過程は全く見ることはできないと千島は述べています。このようにクロレラの集塊からカイメン細胞が形成される過程は、カエルやニワトリの卵黄球(クロレラに相当)の集塊から間葉性細胞や赤血球母細胞が形成される過程と原則的に完全に一致したものと考えるのが妥当でしょう。
 細胞形成の進行につれて、クロレラ集塊の外縁には明るい細胞質(アメーバの外肉と同じ形質をもつ)が現れて偽足を出し、完全なアメーバ運動を始めます。このような段階の細胞はカイメンの遊走性細胞又は血球に相当するものです。
 ガーネットは英国産淡水カイメン(千島が観察した長良川産のものに酷似した種類)を観察し、この緑色を呈するのはクロレラがカイメンの細胞内に共生しているためだということを認めています。そして「カイメンは生物学者にとっては一つの謎であり、昔は植物と考えられていたが、明らかに動物的性質をもつものであるから動物とされている。何故なら鞭毛室の鞭毛によってカイメンの表面にある小孔を通して常に水流を起こしているからだ」と述べています。

③ カイメンは動物か植物か

 千島は淡水カイメンの観察範囲において、これは動物であるというより遥かに植物的であり、クロレラを主体とする植物の群体だと判断しています。確かに鞭毛室や鞭毛細胞が手間をかけたあげくにやっと見出されることがありますが、藻類には鞭毛をもつものがあり、これがカイメン組織内に多数みられたから動物の特性があるとはいえないでしょう。秋の初め頃になると多数のミドリムシ、珪藻、球菌、桿菌、その他のバクテリア類がカイメン組織中に存在するのを観察できます。これらはみな植物性のものです。もっともゾウリムシやその他の滴虫類といった動物性の虫もカイメン組織中に存在することから、カイメンは『生きたホテル』といわれています。

④ 芽球の形成

 秋が深まり水温が低下した11月の半ば頃になると、以前にカイメン中にいたミドリムシやゾウリムシといった運動性のある原生動物は極端にその数を減らし、クロレラその他の細菌類も数が減り、反対に4個が連結した緑藻類が著しく増加し、しかもこれは肥大して長さが減り丸みを帯びた形になり、球形の緑褐色の小体となって花輪状になった集団を形成します。各々の表面はパンの断面のようになり、内部には珪藻や肥大と集合によって生じた小体や針骨を含んでいて、抵抗力を増した芽球になった越冬型になり翌春の発芽を待ちます。

⑤ クロレラはカイメン細胞の共生者か。

 多くの研究者たちはカイメン細胞内のクロレラは細胞内共生微生物だと考えています。たしかに、クロレラ集塊が細胞に発展する一定の段階までは共生と見られる面がありますが、これについて千島はクロレラ集塊がカイメン細胞に進化、発展するものだと確信をもって主張しています。
 その根拠として、

 (イ) カイメン細胞はクロレラ集塊のなかに細胞核を新生し、細胞質の分化を経て形成されるすべての移行過程を示している。
 (ロ) 顕微鏡下で連続観察をしていると始め分散していたクロレラが、段々集合し、カイメン細胞とだいたい等しい大きさと形をもつクロレラ集塊をつくり、細胞に変わっていく連続移行像がある。
 (ハ) 淡水カイメンは冬が近くなると植物の胞子或いは果実の種子に似た芽球を形成しますが、これはカイメン細胞のほかにカイメン体腔内にある珪藻やその他の有機体によるものです。
 (ニ) 淡水カイメンはクロレラの群体で、そのクロレラはバクテリアに起源をもつ植物と考えられ、総合的に判断すれば、やはり動物ではなく植物とするのが妥当だと思われるわけです。


○葉緑体、血球及び細胞の起源と共生体

① 細菌と緑藻類・菌類とアメーバとの関係

 淡水産カイメンの大部分を構成しているクロレラはバクテリア(球菌、桿菌、ビブリオ、螺旋菌、長・短糸状菌など)自体又はそれらの融合によって新生されるものと判断できる過程を千島は確認しました。牛乳、馬鈴薯、オートミール、血球、ワラの滲出液その他の腐敗過程においても、前に述べたように細菌集塊→芽胞・酵母→菌糸へと変化していくとしか判断しようがない過程も観察しています。このように異種の有機物や細菌が集塊となって、それが様々な細胞を形成していくという千島の考えに対し今日の生物学者は狂気の沙汰と罵るかもしれません。
 しかしこのような奇怪と思われることも思慮深い研究者が、率直に観察してみればそれが事実であるということが容易に分かる筈です。
 バクテリアは分裂によって数億年を経ても原始のままの形質をとどめて存続し、今に至っているという現在の常識は、生物進化の実態を無視した誤った認識であることがもうすぐ分かるときが来るに違いありません。

○細胞内の病原菌とその意義

 前にも述べたことですが、共生と寄生との間には厳密な一線を引き得ない場合もありますが、高等動物、特に人類における淋菌、チフス菌、結核菌、癩菌などは病的な細胞内で増殖し、細胞がこれらの病原体で充満すると、遂に細胞の崩壊を招くというのが現在の定説になっています。この問題についてラフォードの見解を紹介しながらそれについての千島の意見を記述したいと思います。

① 淋菌及びチフス菌の細胞内増殖

 淋菌は多型核白血球の細胞質内に多数含まれ、そこで増殖するといわれています。グッパスはチフス菌が消化管内腔や血液中で増殖する証拠は見られないといっていますが、チフス菌に感染すると廻腸のリンパ組織が侵され、プラズマ細胞の増殖が起こり、廻腸のリンパ細胞や腸間膜中のプラズマ細胞にグラム陰性菌を見出したといい、それを彼は「細胞内環境によって変化した特別小型なチフス菌」と呼びました。
 この菌はあたかも細胞内で活発に増殖したかのように嚢に覆われた塊になっていて生体消化管でよく見出されます。グッパスはこのチフス菌は宿主細胞(プラズマ細胞)内で保護され、栄養を与えられたものだと解しています。
 しかしこの場合、細胞内のチフス菌や淋菌は何れも細胞内に侵入したという過程も、また分裂増殖したという証拠も確認されていません。推測ですが、この細胞の環境が病的なものになっていてウイルスや細菌を発生しやすい状態だったために、正常な細胞原形質がウイルスから細菌へ、或いは直接に細菌へ発展していく自然発生だったのだろうと千島はいっています。この千島の説を否定する人は少なくないかもしれませんが、否定するべき証拠は誰にもないことでしょう。なぜなら、千島は腐敗菌が血球内に侵入してもいないのにそのなかに桿菌が自然発生する事実を確認しているからです。事実を否定をすることは不可能なことです。

② 結核菌の細胞内での増殖

 結核病巣を取り囲んでいる上皮様細胞やランゲルハーン氏巨態細胞と結核菌との関係についてはこれまで種々論議されてきました。マキシモウやハーゲンたちはウサギの組織観察において、上皮様細胞と結核菌とは共生の関係にあると唱えました。
 ハーゲンは中度に感染しているウサギの肺を組織培養したが、対照とした健康な肺と等しく正常に機能していることを認め、また結核菌は大食細胞によく捕食されるがその後結核菌が細胞内で分裂増殖するか否かについては不明だといっています。
 このハーゲンの報告に対し千島は「大食細胞が菌をその内部に取り込むというより、赤血球の融合によって大食細胞が形成される際、周囲の一部の細菌がそのなかに埋没してしまう可能性があると推定される。また病巣部では細胞が腐敗に似た課程をたどり大食細胞内に結核菌或いは他の細菌が分裂ではない新生によって増加する可能性も十分に考えられる」といっています。
 ティモフェスキイたちのグループは結核菌で充満した細胞が有糸分裂を示している像を見たといい、ヤネカスも退行性結核菌を含む上皮様細胞の有糸分裂像をみたと報告しています。これに対しても千島は「結核結節内で有糸分裂によって上皮様細胞が増殖するということは全く無意義といえることである。なぜならそれらは、結局は変性死滅に陥るものだからである。かれらが見たという分裂像は正常な増殖ではなく私のいう「細胞の崩壊前に示す断末魔の擬似分裂像」であろうと述べています。
 ウエルメルはモルモットでの観察で、結核菌に侵された細胞が細菌を制圧すると細菌の周囲に空胞を生じ菌は最後には褐色色素になってしまうが、反対に細菌が強勢であれば捕食した細胞のほうが崩壊してしまうといっています。
 ラフォードは「結核は単球の疾患であるといわれている。結核に罹った動物体には結核菌集塊が細胞外にも見られるが、一方では結核結節の細胞内には多数が存在している。このことから、菌はそれの発育・生存に好適な場所を適宜見出すものである。自分の研究によれば、多型核細胞、上皮細胞、多核巨態細胞などはリンパ組織の培養中において通常的に見られるものであり、また移植した腫瘍の単球からもこれらの細胞は生ずる」といっていますが千島は「私が血液の腐敗について観察したところでは、血球内に細菌が発生する以前にまず血漿中の細胞破片、その他の顆粒状物質などを母体として細菌が自然発生する。だから結核菌の場合も、単球の外と内とに菌が存在するのも恐らく腐敗現象と同一状態に属するものだろう」と述べています。

③ 癩菌の細胞内増殖

 ラフォードの見解によると「癩菌は非常に細胞内生活に適した菌で、細胞外にこの菌を見出すのは稀であり、その病巣の周囲には上皮細胞や巨態細胞を形成させ、それらの細胞内には癩菌が充満している。病巣は次第に周囲組織を浸潤していく。これは大食細胞の有糸分裂ではない付加的増加である。癩菌に侵された正常細胞は崩壊して病巣は次第に拡大していく」といいます。
 ビオーレンスカヤは「癩菌を正常および白血病患者の血液、人の胎児の肝臓、脾臓そして肺に組織培養を試みたが癩菌はこれらの細胞や血球に有害な作用はまったく見せず、また組織片から離れた大食細胞は活発に癩菌を捕食しその結果、5~7日後には大食細胞が癩細胞に変わるのを見た。これらの細胞は細胞融合の結果として多核になり多数の癩菌を含んでいる。細胞質は多数のリポイド性液をもち、しかも泡だったような外観をもち、間もなく細胞は崩壊する。貪食された癩菌は細胞内で増殖し、いわゆる「巻き煙草の袋」といわれる充実した形の細胞形態をつくる。癩菌のあるものは崩壊して黄色の色素顆粒になる」と述べています。
 この報告に対し千島は「私の推測だが、癩菌は細胞に対して無害であったわけではなく、結局数日後には細胞が死滅過程(一種の腐敗又は化膿現象)をたどり、その結果、細胞を母体として細菌が新生したものだろう。
 ティモエフスキーたちは癩患者の皮膚結節を組織培養し、組織片から癩菌を含んだ大食細胞や癩菌を含まない繊維母細胞が現れるのを観察し、また癩結節は大食細胞から生じた上皮様細胞から成るもので、往々にして細胞分裂を示すのを見たといっているが、癩菌を充満させた細胞は既に死滅或いは死に瀕した細胞であるから、分裂増殖などをするとは考えられない。何かの過程を見誤ったものだろう。もっとも、コードリイは癩菌に侵された細胞は余り有害作用を受けていない証拠に、核やミトコンドリアは正常な外観を示している。しかしそれら細胞の官能は低下しているようだといっているが、私がこれまでに血球や種々の細胞の腐敗過程について観察したところでは、最初、細胞外にある小顆粒、ついで細胞質が細菌に変化し、細胞核は最後に細菌へ変化しているから、この場合もコードリイは細胞崩壊の初期を見ていたものと判断できる。最後には細胞は核もろともに死滅し、細菌に解体してしまうだろう。
 ビオーレンスカヤは癩菌を細胞崩壊物の中、即ち細胞外で成長せしめ得たといっているが、ラフォードは「とにかく癩菌は細胞内生活に適応したものだから、普通の細菌学的な培養技術ではたちうち出来ない。ティモエフスキー系の癩菌は凝固血漿中で成長することもできるが、細胞の存在によって、よりよく成長することから考えて、微生物というものは一般に細胞内生活に慣れるに従って人工的な培養基で繁殖させることは一層に困難になることだ。ウイルスやリケッチアなどは完全に細胞内生活に適応したものだ」といっているが、このような一般の考え方は細胞内へそれらの微生物が侵入して分裂増殖したものだという仮定から出発している。しかし、この仮定を明確に実証した人はいないだろうし、これからもいないだろう。
 細胞内性の各種病原菌はそれぞれが特殊な病的細胞環境によって誘導作用を受けた血球自体の変化によって生じたものだという私の考えからすれば、ラフォードの上述したような解釈は少し変更を要するものだ」と批判しています。

④ 病原体の細胞内侵入の方法

 これまで細菌学者の殆どが、細胞内の病原菌は食菌作用によって捕食したものだと考えています。アメーバや白血球が細菌を捕食する様子を実際に観察したという研究者はメチニコフ以来、沢山います。しかし千島は細心の注意を払った観察でも、そのような過程を確認する機会には遭遇しなかったといっています。
 最近、ルーバーは「生きた細胞における宿主と寄生の関係」というシンポジウムの席上でつぎのような考えを発表しました。
 「細胞が病原体を捕食する現象といわれているものは、メチニコフがいった食菌作用とは近頃はよほど変わってきている。それは今明らかにされつつあるウイルスや細菌が細胞に捕食されるには、イオンや静電気的な力、或いは化学的物質(オプソニン、トリプトファンなど)の影響が大きく、さらに結核組織の大食細胞組織培養の際、その媒質中に馬の血清を加えると結核菌捕食の度が非常に高まるというシェファードの研究結果などからみて、菌と細胞との環境条件が十分に考えられなくてはならない」という意見でした。このように、病原によって充満した上述したような各種の細胞が菌を捕食する過程は長い千島の研究時代においても観察していません。
 千島は血球の腐敗現象を研究していた折、生体にある結核、癩、チフスその他の病原体が細胞内に見られるのは多分、外部から侵入したものなどではなく、血球の腐敗過程に見られるように、細胞内部にウイルス的前駆物体を経て自然に発生したものと推定しています。

○細胞の起源と共生微生物との関係についての要訣

 前述したような事実や考えからみて、細胞は今より下等段階の生活体(微生物)の集合、融合、分化という過程をもって新生するというのがこの項の要訣となります。
 このことは進化論的にも当然考えられることです。しかも現在の地球上においてそれを反復している証拠もあり、ウイルヒョウの「細胞は細胞の分裂によってのみ生ずる」という細胞学の鉄則は根本的な再検討を要することになります。

(1) 各種原生動物の細胞内に共生微生物といわれる細菌、藻類、酵母などを含み、時にはこれら共生微生物で細胞は充満し、それと共生するといわれる細胞が、どの部分を占めているのか全く分からないもの、いわゆる微生物自体の集塊といった観を示すものが広範囲にみられ、そのうえ、これらの共生微生物を大食細胞なるものが捕食するという状態も確認することは至って困難です。このことは動物消化管壁の細胞内の細菌や酵母といった共生微生物についてもいえることです。これらの共生微生物は細胞内へ侵入したり、細胞に捕食されたものではなく、原則的には自ら集団を形成し、前述した集合、融合、分化という過程を経て、より高次の細胞構造へ発展していくことは千島の研究と観察によって明白です。
(2) 血球は共生微生物(ズークロレラ)に由来するという古典的な学説がありますが、これは決して奇想天外な説ではありません。千島はミミズの含糸細胞が糸状菌の集塊から分化することや、ウニの体腔液中の微生物と血球との間の移行像が見られることからも真実を含んだ学説です。古代の人の直観の鋭さが感じられます。
(3) 葉緑体は元来一個の独立した微生物(多分緑藻類だろう)に由来するというケラーの説も多分誤ったものではないと千島はいっています。クロロフィルと血色素の化学構造が酷似していることも血球とクロレラとの系統発生的関係を暗示しているようです。
(4) 動植物細胞質内のミトコンドリアは、共生菌の名残を示しているという説がありますが、これは妥当な説といえそうです。千島は細菌集塊、緑藻類(クロレラ)の集団の分化によって細胞が形成された名残がミトコンドリアであり、現在でもその過程は消化管壁細胞や昆虫の細菌細胞などの形成途中や、カイメン細胞などによって実証が可能であるといっています。
(5) 淋菌、結核菌、癩菌などが細胞内に充満して繁殖しているのは、多分、血球やその他の細胞が腐敗に陥る際、細胞内部に腐敗菌が自然発生するのと同じ原理で、細胞中に病原菌が新生したものだと推測できます。
(6) ポルチアたちが主張する細胞内共生菌はミトコンドリアの起源であり、これら共生微生物が正常な細胞の機能をまっとうするための基礎になるものだと主張したのに対し、それに反対した人もいましたが、これはポルチアたちの主張の根本的に重要な点を理解することなく、高等生物の一般的な細胞にそのまま適用できない点のみを捉えた結果であるといえそうです。細胞の起源と共生の問題を正しく理解するためには、下等単細胞生物、或いは腸壁細胞などが細菌、クロレラ、酵母などで充満していて、しかも最後にこれらは細胞に同化してしまうという事実を率直に観察することが必要です。それによって細胞というものは歴史的にいって下等微生物の複合体であるという千島の主張が理解できるのではないかと思います。

 さらに高等生物のミトコンドリアが、人工的に培養できるとか、できないなどといったことを問題にして共生者の判定をしている一般的な考え方は余りにも、生物の歴史性を考慮に入れなさすぎるといえるでしょう。千島は細胞の起源は生物では今日でも血球、細菌、クロレラ、その他の微生物の集団と融合によって細胞という次段階の高次の細胞に進展していると確信しています。


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