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革新の生命医学情報 No.24

生命・細胞・血球の起源⑤

【10】細胞の起源と微生物との共生現象

⑤ 豆科植物と細菌との共生、融合と細胞の起源

(1) 豆科植物と根瘤菌

土壌バクテリアが豆科植物の根瘤を形成且つ共生し、空中窒素を固定して植物に栄養として与えることは1888年にウイラートによって発見されました。こんにち一般に土中の根瘤菌は始め根毛中に入り、根はその刺激によって表皮の一部が膨大して根瘤となり根瘤菌は後には老化変形して大型叉状の仮細菌となり豆科植物に吸収されると考えられています。

ボースによると、スカンジナビアのあるクローバーに共生する細菌は抗生物質を分泌して根がカビに侵されるのを防止する役割をもっていると報告しています。これらの報告に対して千島は、その研究と観察結果から『土中の細菌が根毛の内部へ自分の運動によって侵入するといった過程は見ることができない。根に接する土中の有機物中に発生したバクテリア集団が、根毛部と融合して遂には根瘤の形成にいたるものと考えられる。しかもバクテリアは根瘤内で分裂によって増殖するなどといった証拠はまったくない。有機物を母体とて自然発生した細菌は遂には退行して仮細菌となり、最後には植物の栄養として同化吸収されるものと判断される。従ってこの場合にも、細菌は共生体というよりは寧ろ集団的に根毛と融合して一体となるもので、寄生とか捕食と解すべきではなく、下等生物の根本的性質の一つと観るべき集団の形成→融合→同化と有機体制化という現象だと私は考える』と述べています。また、インドのバカランは、エジプトのクローバーの根瘤細胞を研究中、そこに根瘤菌以外の緑藻類の一種も共生していることを発見しました。これは多分、豆科植物の根瘤中に藻類の共生を見出した最初のものでしょう。この緑藻類は最初、根瘤細胞の細胞間隙に現れていたが、次第に細胞内へ侵入して球状のコロニーを形成するといっています。

(2) 菌根

大部分の多年生植物、樹木その他の根に菌類が絡みついて菌根を形成する現象は一種の共生と考えられ、広く植物界に見られる現象です。19世紀の初め以来この現象について多くの例が知られています。フランクは『森林の樹木の多くは根の周囲を菌糸がもつれるように根を囲み、根の細胞中にも侵入して共生し、いわゆる菌根を形成する。これらの菌類は根毛の組成部分であり、菌類は土中から有機物を摂り、根に運び、根は炭水化物を生成して菌類に与えるが、最後には菌類は根に吸収され窒素源になる』と考えました。

またコーレイは菌根の作用はフランクが説くほど明解な共生現象ではなく、根毛に対して発育を抑制するほどの害もなく、根も根毛への付着を黙認している程度のものだといっています。しかし、マキの菌根では根瘤内の細胞は菌糸で充満していて空中窒素の固定を行うといわれています。

根の周囲の菌糸は本質的には根毛の母体であるか、根毛と不可分な関係にあると考えるのが妥当かもしれません。従って根瘤菌等の根に寄生しているかのように見える細菌は、植物体の栄養吸収に役立つことから共生といえます。ただし植物体が病的であるときには、菌類は植物にとって寄生的な存在になる可能性は否定できません。

(3) ランと共生菌

ランの根に菌糸が共生していることは古くから知られています。そしてこの共生菌が種子の発芽にとって不可欠なものであるとベナードはいっています。即ち『ランの種子は非常に小さく、数も無数にあってなかなか発芽させることは困難だと考えられていましたが、自然の状態ではこのランの花の柄が地面に向かって曲がり、種子が地面に接すると土中にいる共生菌類が種子の内部に侵入して始めて発芽することが分かった』といい又『種子の内部に侵入した菌糸は種子中の食細胞によって捕食され細胞内で完全に消化されてしまう』と述べ、同様のことをマグナスも確認したといっています。

これに対してコーレイは『食菌作用は生物体の自己防御作用であるから菌糸が侵入したものを捕食し、その免疫性を働かせて菌糸を細胞内でコイルのようにして発育を抑制し、消化してしまう。

結局ランとその菌根中の菌類とは固定的な共生関係でもなく、また相互扶助的な関係でもない一種の寄生現象であり、慢性的な疾病がランにとって不可欠なものとなったのだ』と説明しています。

コーレイが共生現象を動的に観ていることについて千島は『共生現象を動的に観ていることには賛同する。しかし彼は植物の根が細菌や菌類その他の微生物と生理的に深い関係をもち、むしろ不可欠な相互関係を保っているものであることを理解していない。私はこの場合、決して病的原因だとは考えない。コーレイは菌糸がランの種子に入り、食細胞に捕食されていると解しているが、これは種子内部で菌糸の塊が種子細胞に分化し発展している状態であると判断する。このような見解はウイルヒョウ的細胞観に固執する人々からは奇怪の説と見なされるかも知れないが、近き将来、かならず私の見解の妥当性が認められるときが来るだろう』と見解を述べています。

⑥ クロレラと動物細胞の共生と融合

各種の無脊椎動物の細胞内にクロレラが共生していることはよく知られていることです。この現象は今日においてもその真の意義が十分に理解されていないようです。古典的な説の一つに共生しているクロレラが下等動物の赤血球の起源だとする説がありましたが、今は既に忘れられ顧みられなくなっています。ここでは千島の観察を基礎として内外の研究者たちの成果も総合して、新しくそして重要な千島の見解を述べることにします。

(1) クロレラの細胞内共生

クロレラは原藻類に属する単細胞緑藻類の一種とされていますが、主として淡水中に棲み動物細胞中に共生している藻類です。クロレラは共生生活に入る前の自由生活のある相では鞭毛をもっていて活発に水中を運動する時代があります。そのため、時には鞭毛虫に分類されたりすることがありますが、今日では一般に緑藻類であると考えられています。

シェンコスキーは放射虫類の細胞質中にクロレラが共生しているのを発見しましたが、クロレラの動物細胞との共生の意義や細胞への進化に関連する報告は残念ながらありません。

(2) クロレラ共生の意義

コーレイによると、元来クロレラは単細胞でセルローズの被膜に被われ、細胞質の大部分は有色体で占められ1-10ミクロンと大きさには変動がある球体です。葉緑素を含むものは緑色ですが、黄褐色のものもあります。クロレラ細胞中に核があるという説とないという説があり今も統一されていないようです。千島はクロレラに定型的な核が常に存在するという証拠も、また分裂によって増殖するという証拠も確認していないと述べています。

このようなクロレラが腔腸動物や繊毛虫類、その他の原生動物細胞内にほとんど常に共存していることは確かであり、アメーバやミドリムシがクロレラで充満しているのを千島は観察しているといっています。コーレイの記載では、諸原生動物とクロレラが常に共生いるとは限らず、インド産の夜光虫にはいるが、フランス海岸のものにはなく、ノルマンディ海岸近くのラッパ虫には存在しても、十数キロ離れた地域のものには見られないという。しかし、細胞内のクロレラは時間の経過とともに融合して変化するから、全生活史を調査し観察しなければ、誤った判断を下す虞があると千島は注意を促しています。

クロレラと共生動物細胞との栄養的関係は、クロレラが太陽光によって炭素同化作用を行い、酸素を遊離させて動物細胞に与え、動物細胞からは炭酸ガスを与えられて相互に共生するものだと考えられています。このことについて千島は『クロレラの共生動物細胞は元来、クロレラ集団から発生したものだから或る時代は動物細胞とクロレラ集団とは区別できない一体のものだと考えねばならない。 随ってこの場合、これまでの意味での共生という語をそのまま適用することは妥当ではない』といっています。

⑦ 共生発光菌

各種発光動物の発光が発光バクテリアによるものであることは古来から知られています。しかしそれらの発光が凡て共生菌によるわけではなく、腐敗を始めた魚の発光や、或る種の昆虫が発光菌の寄生により発光する場合等は偶発的な寄生によるもので、生理的な発光ではないとされています。

一方、ホタルや頭足類の或る種のものなどのように発光器官をもっているが、発光菌の共生なのか或いは単なる化学的作用の結果であるのか未解決のまま残されているものもあります。

ここでは共生菌の働きだと考えられている主なものだけを紹介しましょう。

(1) ホタル及び頭足類

発光現象の共生菌説主張の第一人者であるイタリアのペラントニはホタルの発光器官がアリマキの細菌器官と構造的に酷似していること、また発光器官も細菌(球菌・桿菌)と全く等しい形態と染色性をもつもので充満した細胞から構成されていることなどから、ホタルの発光現象は共生菌によるものだと考えました。しかし、ノビコフは化学作用による発光だとしてペラントニの説に反対しています。ペラントニは又頭足類のマイカの発光器官細胞内に発光細菌が共生し、卵子を通して次世代への移転をしており、その発光菌の培養に成功したと述べています。さらにメッシナ海の深海頭足類の発光現象も共生菌によるものと主張していますが、同じイタリアのパントニやモルトーラはこれに反対しており、頭足類やホタルの発光体についてはまだまだ論争が続きそうです。

(2) 発光ホヤ類

ホヤは海洋性の被嚢動物で間歇的に明るい光を発する生物です。発光器は鰓の両側にあり、発生学上では卵の周囲を包む特殊な細胞に由来し、この細胞は内部に多数のソーセージ型をした小体で充満しています。ジュリンはこれをミトコンドリアと考えましたが、ペラントニは発光菌を含んだ細菌でありこれは細胞を形成し、血液によって体の各部に運ばれると発光菌の共生説を主張しています。

(3) 魚類

大洋の珊瑚礁に棲む魚の発光器は眼の周囲にあり連続的に発光します。発光器は腺様の構造になっており、管腔内には細菌が連鎖状になって充満しており、これは外部で培養することができます。

ジャバの或る魚も同様に発光器をもっており、この発光器は胃の入口及び食道の周囲を取り巻いていて反射装置もついているといい腺腔には桿菌が充満しているといいます。日本のマツカサウオもこれと同様の発光共生菌をもっていると岡田要氏が報告しています。

(4) 千島喜久男の見解

『上記のような様々な説に対し反対、疑問視、又賛同といった論争が続いているが、発光菌様細菌は細胞内で変化してミトコンドリア様体に変化する可能性もあり、又化学的発光物質を生成する可能性も十分にあるから、細胞内共生菌が発光に関与し、時には細胞質に全く同化してしまう場合もあることだろう。だから発光菌の共生を完全に否定することは妥当でない』

⑧ 昆虫における菌節と共生菌

(1) 菌節と共生微生物

多くの昆虫において、その消化管壁その他に細菌を含んだ細胞があり、それらが集まり菌節又は細菌器官を形成しています。1858年、ハックリイがアリマキの卵巣の両側、腹面に卵黄球に似た球形体を含む細胞の塊を発見しこれを偽卵黄と称しました。次いでバルビニが仮卵巣、メチニコフは第二次卵黄と呼びました。後にペラントニらは研究によって偽卵黄の内容は酵母菌で、アリマキと常に共生的関係にあると主張しました。

細菌細胞に含まれているものは、研究者によって酵母、菌糸、細菌などと様々な主張になっています。アリマキの幼生では消化管や卵巣細胞内に共生菌が存在し発育の早期には共生菌の活動は休止状態で、成体となって卵子の形成が開始されると卵黄に接するようになり、盛んに増殖しやがて細胞を破って卵子の後端から内部に侵入するといわれ、このようにして、共生菌は卵を通して次世代に移転するものと考えられており、また菌節細胞塊の間にアメーバ状白血球が入り込み、細菌細胞に幾つかの血球を含むようになり核は膨大するといわれています。

(2) 共生者の融合と細胞新生

上記のような変化過程について千島は次のような見解を述べています。

『私が淡水カイメンで見出したこと、即ちアメーバ状白血球や細胞がクロレラの融合と分化によって新生する過程と類似している。恐らく菌節細胞中の数個の血球は外部から侵入したのではなく、新生した血球と細菌とが融合して菌節細胞を形成しているのだろう。また有糸分裂によってこの細胞が増殖することもないだろう。細菌の融合分化諸段階において糸状菌から芽胞、酵母様体への移行像を種々な場合で観察しているが、細胞内にアメーバ様血球が出現するのも『微生物集団からの細胞新生』の一証拠になるはずである』

⑨ 昆虫の消化管内細菌と消化

(1) 昆虫の消化管内細菌

昆虫の消化管内に細菌が生息して消化を助けている事実は、高等動物より遙かによく知られていることですが、一般に胃には細菌は少なく中腸に最も多く、後腸はこれに次いで多いようです。

ある種の昆虫では中腸の後端付近に開口する盲腸があり、その内部には多数の小球菌から巨大な螺旋菌に至るまでの各種細菌が宿っているとステインハウスは報告しています。

また、彼はカメムシの胃の後方にも細菌で充満した嚢があり、産卵の際、その細菌が卵の表面に付着して孵化した幼虫はその菌を食して成長しますが、この細菌が卵に付着していないと1週間ほどで幼虫は死んでしまうといっています。カオはハエの幼虫は人間の病原菌やその他無害の細菌を食物と共に摂取し、細菌は幼虫の腸内で増殖し体外にそのまま排出されるといいます。

ロビンソンはヒロズキンバエの蛆が摂取した細菌を長い管状の胃を通過する間に殺菌すると報告しています。ウイルスワースによると、各種昆虫の遺伝的微生物は主として腸に局限して存在し、カメムシの多くは中腸の内部に、カミキリムシの一種では腸壁細胞内に存在し、腸内腔に絶えず遊離してくるといっていますが、このことについて千島は『遊離と見ることは恐らく誤りで腸内腔から腸壁細胞内へ埋没される過程を見たのだろう。これは私の消化管造血に関する研究から判断できる。微生物は昆虫の栄養保持に不可欠なものであり、共生的なものであることは疑えないが、微生物が最後には昆虫に消化吸収される場合が多いから、共生生活もある一定の時期までと考えたほうが妥当である』と述べています。

(2) 昆虫の細菌発酵室

種々の昆虫幼虫の腸後部には細菌発酵室といわれる場所があります。その内部には無数の細菌がいて、摂取した木質のセルローズを発酵分解し吸収させているといわれています。

ハナムグリ、オオクロガタなどの幼虫がこの例に該当します。

(3) 昆虫の消化生理と細菌

『私はカイコの幼虫腸内でクワの葉は次第に圧偏され消化管に付着し、腸壁組織に変化したり、腸壁内に埋没し組織内消化が行われている過程を観察している。この際、ポルティアがいうように細菌の助けをかりるものと思われるが、私が観察した限りでは余り定型的な細菌は見られなかった。しかし、この点については今後、なお研究の必要がある』と千島は消化と細菌の関連を述べています。

クサガメの腸内細菌はビタミンを合成し、ドロソフィラというハエの一種のそれは眼の色素を変化させるホルモンを分泌することも知られており、また昆虫の幼生が共生菌の有無によって発育が著しく異なることもしられている事実です。

(4) 外傷治癒とハエの幼虫

化膿性外傷に肉バイが産卵するとその傷は異常ともいえる早さで、回復することは以前から知られていました。ナポレオンの主治医として有名な外科医、レーリーはシリヤ戦争のとき、負傷兵の傷にハエの蛆がいることによって傷が早く治ることを事実確認しています。この他昔の医師たちもこのような傷と蛆との関係を知っていました。そしてこの事実を科学的に詳しく研究したのが第一次大戦の折りにおけるベアです。彼は傷ついた兵士が手当されることもなく野戦で放置されているうちに、ハエの蛆が傷口に発生しているにも拘わらず早期に手当した者と同様に、発熱も化膿もせず、そして傷の経過もよいことに着眼しました。そこでベアは蛆が発生していた兵士たちの傷をきれいに洗ってみると、創傷部はピンク色の肉芽組織で充たされているのを知り『この蛆は骨髄炎の外科的治療に驚くべき有効な働きをするものだ。蛆がその消化作用で組織を清掃して創傷治療の効果を高めてくれる上に、創傷部をアルカリ性にしてこれによって細菌の発育を抑制してくれる』と報告しています。

1935年にはシモンズがハエの蛆の分泌物から耐熱性の殺菌性物質を抽出することに成功しています。同じ年にロビンソンは蛆とは関係がないが尿素も創傷の回復を助ける作用があるといっています。ハエの蛆が膿や細菌を喰うことは当然にあり得ることです。昆虫の幼虫が創傷治癒に貢献する結果は高等動物と、昆虫の幼生との一種の共生とみることもできるでしょう。


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